初めての議事録:役員報酬の変更の際に必要な議事録について
議事録とは
役員報酬を変更する場合には株主総会で決定する必要があり、その際必ず議事録も作成する必要があります。この記事では株主総会の議事録である株主総会議事録について詳しく解説し、作成方法についてのご説明をしたいと思います。
そもそも一般的に議事録とは、会議で行われた議事の経緯と、その決議を記録する役割を担っています。関係者はその記録を閲覧し、会議で話し合われた内容の確認とその情報共有によって、毎日の業務を円滑に進めることが可能となります。会議等で作成される議事録も株主総会議事録についても基本的には同じ目的で作成されると考えてよいでしょう。
役員報酬を変更する場合は会社法361条にて次のように規定されています。
「取締役の報酬等については定款に定めていないときは、株主総会の決議による」
役員報酬は定款による規定又は株主総会決議のいずれかにより決定することが必要とされます。株主総会決議により決定する場合には、株主総会議事録の作成が併せて必要となります。その理由として、経営を任された取締役が株主の知らないうちに役員報酬を決定してしまうことを防ぐことが目的とされています。
役員報酬の変更は事業年度開始日から3か月以内に決定することが必要であり、例えば事業開始が4月1日の場合には6月30日までに役員報酬を変更しなければなりません。このようなことから、議事録作成年月日は株主総会と同じ日となります。
もし7月以降に遅れて役員報酬を変更してしまった場合、または株主総会議事録に不備等があった場合は、役員報酬は会社の経費としては認められないので注意が必要となります。株主総会議事録は決議事項等の記録だけではなく、特別利害関係を有する取締役の氏名や意見、発言内容の概要等についても記載が必要とされています。取締役会議事録は一定期間事務所内に保管し、必要に応じて取締役・監査役・株主及び債権者等への希望者へ閲覧と謄写をさせることが必要となります。これらのことにより取締役相互及び監査役や株主等、取締役に対する業務監督の実効性を高めて会社債権者による役員責任を追及することが可能となる仕組です。
議事録の書き方
株主総会議事録の様式や書式についての規定はありませんが、その記載事項については会社法施行規則で定められています。具体的には以下の項目について記載する必要がありますが、WEBサイトなどで検索頂くと、雛形が簡単に見つかるのでダウンロードして作成することをおすすめします。
・株主総会開催日時及び場所
・議事の経過要領及び結果(役員報酬の金額決定について)
・株主総会に出席した取締役等の氏名
・議長氏名(いない場合は記載必要なし)
・議事録を作成した取締役氏名
また、過半数の議決権を有する株主の出席がなければそもそも株主総会を開催できませんので、定足数を満たしている事実を明確にする会社発行済み株式総数の記載と、議決権数を記載することが必要となります。
またその他にも役員報酬を定款にて記載する方法もありますが、役員報酬を変更する毎、定款の変更が必要となってしまいますので一般的には少ないケースとなります。また合同会社の場合、議事録の作成についての法律上義務付けはされておりません。しかし、税務署や日本年金機構より提示を求められる場合がありますので、作成しておくことをおすすめします。合同会社は社員総会で役員報酬を決定することになりますが、社員総会議事録及び、これに準ずる同意書を作成し保存することが必要となります。
書類電子化のすすめ
株主総会は毎年一回以上開催する必要があり、それに伴い株主総会議事録の作成が必要となります。株主総会議事録について保管期間を直接定める法令上の規定はありませんが、据え置き期間については、株主総会の日から起算し10年間(支店では議事録の写しを5年間)備え置くことが法令上求められています。もし議事録を備え置かなかった場合は代表取締役に100万円の過料が命じられる場合がありますので注意が必要です。したがって少なくとも10年間は株主総会議事録を保管することとなりますが、据え置き期間経過後については法律上保管する義務はありません。場合によっては保管場所等の問題等により破棄してしまう会社もあるかと思います。しかし株主総会議事録は株主総会の審議経過や議決内容等非常に重要な記録であり、さらに関係事項の登記の添付書類や決議の効力を争う訴訟の証拠、株主総会に基づく手続や訴訟にも使用されます。仮に議事録が作成後数十年経過した場合であっても、紛争が生じた際に株主総会議事録が必要となる場合が考えられます。また、株主総会議事録には定款変更の決議等、会社にとっても重要事項が記載されています。そのようなことから考えると、据え置き期間を過ぎた10年以後であっても、株主総会議事録を保管した方が望ましいと言えそうです。
そこで株主総会議事録の保管方法としてのおすすめは、電磁媒体による保管方法です。電磁媒体による保管については法令により認められていますので、パソコン等で書類を作成・保管することも検討されてよいかと思います。紙の経年劣化や紛失の心配はなく、もちろん保管場所に困ることもありません。事務所キャビネット等の保管の場所の問題により、安易に廃棄してしまうことのないようご注意ください。
注意事項
今後のことも考えると、株主総会議事録の保管については電磁的媒体による保管がおすすめですが、注意事項について下記キーワードを3つにまとめ、簡単にご紹介いたします。
・真正性 ・見読性 ・保存性
1.真正性
真正性とは、記録が本物であるか否かということです。また真正性については、さらに次の通り3つの要件に分類されています
・セキュリティ ・監査証跡(作成記録・変更記録) ・バックアップ
まずセキュリティとは、ユーザIDとパスワードの組合せによりユーザ権限を設定し、第三者によるコンピュータへの侵入及び攻撃、改ざんといった不正利用を阻止することでコンピュータへの機密性や安全性を確保することを言います。
次に監査証跡についてですが、電磁的記録を保持するコンピュータシステムを、「誰が」「いつ」「どのフィールドを」入力したのか、または「誰が」「いつ」「どのフィールドを」「何から何に」変更したのかについての証跡となります。データ改ざんを防ぐ目的により自動的に行っています。
バックアップについては、もしバックアップがされなかった場合を想定されるとわかりやすいと思います。万一、災害等が起きた場合は監査証跡が消失してしまいます。「誰が」「いつ」入力または変更を行ったか確認不能となりますので当該記録が真正なものであるか否かの確認ができなくなってしまいます。バックアップを用意しておけば、このような問題は解決できると言えます
2見読性
次に見読性については、いつでも速やかに必要なデータをパソコン画面に表示可能であるか、または紙媒体に印字可能であるかという意味です。電子文書は電磁的記録としてデータ形式で保存されるものですので、その内容は対応するソフトウェアにてディスプレイに表示又は紙へ印字することによって確認できます。もしその対応するソフトウェアがサポートを停止した場合には、適切な表示ができなくなってしまう危険性があります。もちろんOS交換や、アップグレードをした際にも生ずる可能性があります。よって電磁的記録による保存については、見読性の要件が求められることになります。
3保存性
保存性についてですが、長期保存可能か否かということとなります。電磁的記録を長期間保存するためには、電磁的記録媒体(SSDやCDR等)の寿命が来る前に、新しい電磁的記録媒体に確実にコピーする必要があります。紙媒体による保存の場合、半永久的に資料が保存できると考えられますが、電磁的記録媒体(メディア)の場合は、媒体自体の経年劣化が問題となります。装置の故障や記録媒体の劣化等により読み取り不能になる可能性があるため、電磁的記録自体の重要性に応じて、装置の多重化や記録媒体の劣化対策などを考慮しなければなりません。つまり保存義務期間中に文書が消失、破損しないことが求められます。
まとめ
以上のことより、これからの株主総会議事録についてはデジタル化が必須と考えられる一方、真正性や見読性及び保存性の要件を確実に確保するための工夫が必要であることが求められます。